本研究では、なぜクマは体脂肪率30~40%の肥満状態でも脂肪肝や高脂肪血症を発症しないのか、その特徴的な体脂肪蓄積メカニズムを明らかにすることを目的にして次のような実験を行った。実験は、秋田県北秋田市マタギの里阿仁クマ牧場において、4月と6月に各々1回行った。1回の実験に4頭のツキノワグマを用いた。塩酸チレタミンと塩酸ゾラゼパムの混合薬(Zoletil 100、Virbac、フランス)9mg/kgにより不動化を行い、麻酔状態下で以下のサンプリングおよび実験を行った。なお、使用したツキノワグマは前日の夕方5:00以降は絶食状態とした。 1)基底レベルの血中グルコース、グリセロール、中性脂肪、コレステロールおよび遊離脂肪酸濃度を測定した。血中グルコース濃度には月別の変化は見られなかったが、血中グリセロール、中性脂肪、コレステロールおよび遊離脂肪酸濃度は冬眠中の3月に上昇した。また、血中中性脂肪濃度は11月に低下した。 2)バイオプシーにより脂肪組織を採取し、さまざまな酵素のmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定した。その結果、脂肪酸合成や中性脂肪合成に関連する酵素mRNAの発現量が11月に増加し、3月に減少する傾向にあった。一方、脂肪合成を抑制する酵素や脂肪酸の運搬および異化に関連する酵素mRNAの発現量は3月に増加した。このように、ツキノワグマの体脂肪築盛は摂食量の増大以外の要因によっても調節されていることが示唆された。
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