哺乳動物の排卵は炎症用反応であり多くの炎症性物質が関与することが知られている。一方、排卵前後の卵胞で抗炎症性糖質コルチコイド(G)の活性が高まることが近年ヒトや実験動物で報告されている。本研究では排卵に伴う炎症性物質の影響を受けることが予測される卵丘卵子複合体(COC)において、1)Gシステムの存在とその調節機構、および2)GがCOCに与える影響と作用機序を明らかにすることを目的とし、以下の結果を得た。(1)代表的なサイトカインIL-1はウシ卵子の核成熟を誘起するが、卵丘細胞のプロジェステロンやプロスタグランジン合成酵素、11β-HSD1の発現には影響を与えない。これはIL-1受容体が卵子でのみ発現しているためである。(2)ウシ卵子ではIL-1α/β、IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1RA)の高い発現が見られることから、IL-1システムが局所因子として卵子成熟に関わっている可能性が考えられる。(3)G受容体は主に卵子で発現しており、高濃度のG処置は卵子成熟を抑制する。(4)卵子ではGの非活性型酵素(酸化型酵素)11β-HSD2の発現と活性が認められた。阻害剤により11β-HSD2の活性を抑制するとGの卵子成熟抑制効果が高まることから11β-HSD2が卵子を卵丘で合成されるGから守っている可能性がある。以上のことからウシCOCではGシステムが存在しており、局所のG濃度を合目的的に調節することでCOCを炎症反応や高濃度のGから防御している可能性が示された。
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