嗅上皮と鋤鼻器は、それぞれ一般的な匂い受容とフェロモン受容に特化した嗅覚器であるが、両者は同じ原始嗅上皮に由来する。p53ファミリー遺伝子の発現抑制による影響を、これら2つの器官の間で比較することによって、嗅覚ニューロンと鋤鼻ニューロンを生じる分子機構の解明につながる糸口を見出すのが本研究の目標である。 平成21年度は、ラット胎子の鋤鼻器を副嗅球と共培養し、形態学的・生化学的に評価する実験を行った。具体的には、培養細胞の形態を明確にし、細胞種を同定するため、各細胞種に特異的な抗体を用いて蛍光免疫染色を行った。細胞の微細形態は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡によって観察した。嗅覚器の発生に関与することが知られている転写因子や成長因子等の発現は、in situハイブリダイゼーションや蛍光免疫染色、RT-PCRによって検出した。アポトーシスによる細胞死はTUNEL法によって、増殖細胞はBrdU法によって、それぞれ検出した。 続いて、この共培養系を用いて、アンチセンスオリゴヌクレオチドによるp53ファミリー遺伝子の発現抑制実験を行った。陰性対照には、オリゴヌクレオチドを加えずに培養した無処置群と、遺伝子発現抑制作用の無いミスマッチ配列を含んだアンチセンスオリゴヌクレオチドや、センス配列のオリゴヌクレオチドを添加して用いた。遺伝子発現が抑制され、タンパク質レベルで発現量が低下することは、p53ファミリーに特異的な抗体を用いた蛍光免疫染色とウェスタンブロットによって確かめた。このようにして、p53ファミリーの各遺伝子について、発現を抑制するのに必要なオリゴヌクレオチド濃度や培養日数等の条件を決定した。
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