嗅上皮と鋤鼻器は、それぞれ一般的な匂い受容とフェロモン受容に特化した嗅覚器であるが、個体発生の過程で両者は同じ原始嗅上皮に由来する。本研究はp53ファミリー遺伝子の発現抑制による影響を、これら2つの器官の間で比較することによって、嗅覚ニューロンと鋤鼻ニューロンを生じる分子機構の解明につながる糸口を見出すのが目標である。 1p53ファミリー遺伝子の発現抑制による影響の解析 平成22年度には、p53ファミリー遺伝子の発現抑制が鋤鼻ニューロンに及ぼす影響について、共培養系の生化学的・形態学的解析による評価を試みた。細胞特異的マーカーと嗅覚器の発生に関わる遺伝子の発現は、in situハイブリダイゼーションや蛍光免疫染色、RT-PCR等によって解析した。細胞の形態は光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡によって観察を行った。アポトーシスによる細胞死はTUNEL法によって、増殖細胞はBrdU法によって、それぞれ検出を試みた。このようにして、p53ファミリー遺伝子の抑制による影響を多面的に解析した。 2嗅上皮と主嗅球の共培養系の確立とp53ファミリーの発現抑制による影響の解析 鋤鼻ニューロンと並行して嗅覚ニューロンについて調べるため、ラットの胎子から嗅上皮と主嗅球を採取して共培養し、アンチセンスオリゴヌクレオチドを添加した後、分化マーカーや発生に関わる遺伝子の発現、細胞増殖、アポトーシス、線毛の発達、軸索の伸長等を指標として、p53ファミリー遺伝子の発現抑制が嗅覚ニューロンに及ぼす影響を解析した。
|