嗅上皮と鋤鼻器は、それぞれ一般的な匂い受容とフェロモン受容に特化した嗅覚器であるが、個体発生の過程で両者は同じ原始嗅上皮に由来する。本研究はp53ファミリー遺伝子の発現抑制による影響を、これら2つの器官の間で比較することによって、嗅覚ニューロンと鋤鼻ニューロンを生じる分子機構の解明につながる糸口を見出すのが目標である。 前年度に引続き、平成23年度はp53ファミリー遺伝子の発現抑制が鋤鼻ニューロンに及ぼす影響を、共培養系の生化学的・形態学的解析によって評価することを試みた。細胞特異的マーカーと嗅覚器の発生に関わる遺伝子の発現は、insituハイブリダイゼーションや蛍光免疫染色、RT-PCR等によって解析した。細胞の形態は光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡によって観察した。アポトーシスによる細胞死はTUNEL法によって、増殖細胞はBrdU法によって、それぞれ検出した。このようにして、p53ファミリー遺伝子の抑制による影響を多面的に解析した。 さらに、前年度に引続き鋤鼻ニューロンと並行して嗅覚ニューロンについて調べるため、ラットの胎子から嗅上皮と主嗅球を採取して共培養し、アンチセンスオリゴヌクレオチドを添加した後、分化マーカーや発生に関わる遺伝子の発現、細胞増殖、アポトーシス、線毛の発達、軸索の伸長等を指標として、p53ファミリー遺伝子の発現抑制が嗅覚ニューロンに及ぼす影響を詳細に解析した。 最後に、鋤鼻ニューロンと嗅覚ニューロンで得られた結果をまとめ、嗅覚器の発生においてp53ファミリー遺伝子が果たす役割は何か、原始嗅上皮から2つの嗅覚器が分化する分子機構がどこまで解明できたか等について具体的に総括し、今後の研究の方向性を展望することを試みた。
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