近年、プリオン蛋白(PrP)が腫瘍細胞の接着・浸潤・転移において、ある種の役割を持つ事が示唆されている。本研究では、各種移植腫瘍におけるPrP遺伝子発現量の比較検討を行った。 【材料と方法】ヒト由来腫瘍細胞株は、A549(肺癌)、HKBMM(髄膜腫)、HLC1(肺癌)、HUSEM(子宮頸癌)、IGSK2(胃癌)、JHUCS1(乳癌)、KPL1(乳癌)、KPL3C(乳癌)、KPL4(乳癌)、MCF7(乳癌)、RERF-LC-KJ(肺癌)、Sawano(子宮内膜癌)、2008(卵巣癌)の計13細胞株を用いた。ヌードマウスに移植、腫瘍形成後、腫瘍組織から調製したRNAを用いて、リアルタイムRT-PCRによりPrP遺伝子発現量を解析した。 【結果と考察】各種腫瘍において、腫瘍実質のPrP遺伝子発現量を表すヒトPrP遺伝子の発現は、HKBMMがもっとも高く、MCF7がもっとも低い発現を示した。HKBMM/脳およびMCF7/脳の値は、0.81および0.017であった。腫瘍間質および周辺のPrP遺伝子発現を表すマウスPrP遺伝子発現は、ヒトPrP遺伝子発現と相関性が認められなかったことから、腫瘍実質のPrP遺伝子発現が、周囲間質のPrP遺伝子発現に影響を与えていないと考えられた。HUSEM、MCF7および2008において、移植前後のヒトPrP遺伝子発現を比較したところ、移植前後でヒトPrP遺伝子発現に大きな変化は認められなかったことから、移植が腫瘍のPrP遺伝子発現に大きな影響を与えないと考えられた。以上のことから、腫瘍におけるPrP遺伝子発現は、周囲間質PrP依存性ではないと考えられた。
|