「研究の目的」近年、プリオン蛋白(PrP)が腫瘍の浸潤・転移に関与している事を示唆する報告がされている。テネイシンC(TNC)も腫瘍の転移や血管新生に深く関与している細胞外マトリクスの一つである。本研究では、各種ヒト由来腫瘍細胞株をTNC野生型(TNC WT)およびTNC欠損型(TNC KO)ヌードマウスに移植し、腫瘍実質および間質のPrP遺伝子発現量を比較、検討することで、TNC欠損がおよぼすPrP遺伝子発現への影響を解析することを目的とした。 「研究実施計画」ヒト由来腫瘍細胞株は、乳癌細胞株KPL-1、KPL-3C、KPL-4、MCF-7、肺腺癌細胞株RERF-LC-KJ、子宮頸癌細胞株HUSEM、子宮内膜癌細胞株Sawano、子宮癌肉腫細胞株JHUCS-1、卵巣癌細胞株OV2008、髄膜腫細胞株HKBMMの計10細胞株をTNC WTおよびTNC KOマウスに移植した。腫瘍形成後、採取した腫瘍組織から調製したRNAを用いて、リアルタイムRT-PCRにより腫瘍実質および間質のPrP遺伝子発現変化を解析した。 「成果の内容」TNC KOマウス移植腫瘍実質では髄膜腫HKBMM、肺腺癌RERF-LC-KJ、子宮頚癌HUSEM、子宮体癌JHUCS1、乳癌KPL-1および乳癌KPL-3CにおけるPrP遺伝子発現がTNC WT移植腫瘍実質と比較して有意に低下した。TNC KOマウス移植腫瘍間質では乳癌MCF-7、肺腺癌RERF-LC-KJ、卵巣癌OV2008、乳癌KPL-4、髄膜腫HKBMMおよび子宮体癌JHUCS1のPrP遺伝子発現量がTNC WTと比較して有意に上昇した。 「意義・重要性」腫瘍実質におけるPrP遺伝子の発現低下および間質における発現上昇は移植母体のTNC欠損の影響であると考えられた。これらのことはTNCとPrPの直接的な影響は不明だが、移植母体のTNC欠損がもたらす腫瘍微小環境の変化により実質でのPrP遺伝子発現が低下し、一方で、腫瘍が産生する物質の変化による影響で間質のPrP遺伝子発現が上昇したと考えられた。
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