ヒトのI型糖尿病は臟器特異的な自己免疫疾患で、全糖尿病の約5%を占めている。免疫学的機序については、多くの事が明らかにざれている。それらの知見を基に、現在治療や予防が試みられている。それにも関わらず、本疾患の頻度の高い北欧(約10%)ばかりではなく、ヨーロッパを中心に本疾患が増加している。この事は、未だ不明の機序または病因因子が本病態の発現に関与している可能性がある。そこで、その理由を明らかにするために、新しい切り口から、これまで明らかにされている病因因子を整理するとともに、これまで蓄積した申請者らの知見と申請課題に沿った新しい概念を以下のように提唱した。 注目すべき点は(1)本病態発症の責任・疾患感受性遺伝子は人種・民族によって大きく異なる事、(2)Th1病に属する本病態と、その対局に位置するTh2病に属するアレルギー疾患が、自己寛容免疫機構の破綻という共通的要因を有する事、(3)感染体を含めた環境因子が複合して、あるいは多段階的な相互作用によって発症に至る事、(4)病理発生を考える上で、標的細胞と効果細胞という単純化された実験系による解析のみではなく、本申請課題でのべたNicheの概念(自己免疫疾患では、申請者が初めて提唱した)を考慮した病態解析が重要である事を纏めた(Hayashi T : Environmental factors and concepts in the induction of type 1 diabetes)。 ここで纏めた内容は、新しい概念を基盤に今後の1型糖尿病の研究の方向性を示した点で、極めて重要で意義のある内容である。
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