本研究は、乳汁中のVEGFが新生仔の消化管の分化増殖に対してどのような機能を果しているのかを解明するために、マウスを用いて乳腺ならびに消化管におけるVEGFとそのレセプター(R1およびR2)の発現動態を免疫組織化学的におよび生化学的に検索した。得られた結果の要約は以下の通りである。 生殖周期における乳腺組織のVEGFの局在を検索したところ、乳腺上皮細胞あるいは毛細血管内皮細胞の細胞質に発現がみられ、その反応強度は妊娠末期から泌乳前期にかけて最大となる有為な変化を示した。VEGFの発現量をwestern blottingで検索したところ、処女期から妊娠末期まで増加し、その後泌乳期で漸減し、離乳期では処女期と同じくらいに減少するという有為な変化を示した。また、VEGFR1の局在は全ステージを通してみられなかったが、VEGFR2は全ステージとも毛細車管内皮細胞の細胞質に局在していた。 次に、生後1~20日齢の新生仕消化管におけるVEGFの発現動態を検索したところ、胃・十二指腸・空腸・盲腸・結腸の粘膜上皮細胞および腺細胞の細胞質に陽性反応が観察された。日齢に伴い、胃では主細胞に、十二指腸および空腸ではバネート細胞に強い発現がみられるようになった。VEGFR1の局在は、胃を除く消化管の線条縁および腸腺腺腔縁にのみ観察され、小腸では日齢に伴い陽性細胞の割合と反応強度の低下がみられた。VEGFR2は消化管各部位の粘膜の血管内皮細胞に局在していた。 乳汁中のVEGFの存在をwestern blottingで検索したところ、泌乳期間中搾乳乳汁および胃内乳汁中にその存在を確認した。 以上のことから、乳汁中のVEGFは新生仔消化管の形態形成や機能に関与していることが示唆された。
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