本研究では、近年、医学領域でエンドセリン(ET-1)の関与が特に注目されている2つの疾患(呼吸循環器疾患と腫瘍性疾患)に着目し、申請者がこれまで行ってきた獣医学領域におけるエンドセリンに関する基礎研究成果を発展させ臨床応用につなげることを目的としている。 本年度は以下の内容について検討を行い有用な結果を得た。 1)呼吸循環器疾患におけるエンドセリンの病態マーカーとしての有用性 犬において血中ET-1濃度が肺高血圧症の重症度マーカーとして利用可能であるかについて、三尖弁逆流(肺高血圧)を有す症例を対象に血清big-ET-1濃度を測定し検討した。肺高血圧の重症度評価は超音波検査によって得られる三尖弁逆流速、右室・右房径、右室拡張能パラメーター、右室収縮能パラメーターを基にして行った。その結果、血清big-ET-1濃度と三尖弁逆流速の間に有意(p<0.05)な正の相関がみられ、また血清big-ET-1濃度と最大右房直径および最大右房横径との間で強い正の相関が認められた(p<0.001)。これらのことから、血清big-ET-1濃度の上昇は推定肺動脈圧の上昇、右心への圧負荷および容量負荷、右室拡張障害の指標となり、人と同様に血清big-ET-1濃度は肺高血圧症の重症度を把握するためのマーカーとし利用できる可能性が示された。 2)血管肉腫における腫瘍マーカーとしての有用性 犬においてET-1が血管肉腫の腫瘍マーカーとして利用可能であるかについて、脾蔵の血管肉腫が疑われる症例を対象に血清big-ET-1濃度を測定し検討した。血管肉腫の最終診断は術後の病理組織検査によって行った。病理検査によって血管肉腫以外の腫瘍と診断された場合は血管肉腫以外の腫瘍群、病理検査によって腫瘍性疾患以外の疾患と診断された場合は非腫瘍性疾患群として分類した。その結果、健常犬の血清big-ET-1濃度は5.86±3.28pgmLであるのに対し、血管肉腫群では25.79±7.23pg/ml、血管肉腫以外の腫瘍群では5.65±7.20pg/ml、非腫瘍性疾患群では5.23±6.71pg/mlであった。また、血清big-ET-1濃度は血管肉腫の切除手術後、著しく(28.48±5.35pg/ml)減少した。これらのことから、血清big-ET-1濃度は血管肉腫の腫瘍マーカーとして利用できる可能性が示された
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