【背景・目的】本教室では、特発性前頭葉てんかん家系犬を維持しており、大脳皮質における免疫組織化学的検索から、本家系犬の大脳皮質におけるグルタミン酸トランスポーターの陽性像の低下が認められ、グルタミン酸が細胞間隙に集積しやすい状態にある可能性が示唆された。よって、本家系犬の大脳の神経細胞過剰興奮に、GLT-1蛋白の合成低下とそれに伴うGluのシナプス間隙にお2ける集積が関連している可能性が示唆された。今回、本家系犬の大脳皮質脳溝深部のアストロサイトにおけるGLT-1蛋白の合成過程に着目し検索を行った。【材料および方法】(1) 免疫組織化学的検索:家系犬3例および対照犬2例の大脳ホルマリン固定材料および抗GLT-1抗体を用いた。(2) In situ hybridization:上記ホルマリン固定材料およびGLT-1mRNAに相補的なプローブ(DIGoligonucleotide 3'-end labelling kitで標識)を用いた。(3) 免疫電子顕微鏡学的検索:上記ホルマリン固定材料および抗GLT-1抗体(immunogoldで標識)を用いた。【結果】(1) 免疫組織化学的検索:家系犬の大脳皮質脳溝深部におけるGLT-1陽性像の減弱を確認した。(2) In situ hybridization:連続切片を用いた検索により、GhT-1陽性像低下領域のアストロサイトはGLT-1mRNA陽性であることが確認された。また、対照犬と家系犬に陽性像の差は認められなかった。(3) 免疫電子顕微鏡学的検索:対照犬の大脳皮質脳溝深部のアストロサイトの小胞体膜上および細胞膜上にGLT-1陽性像が確認されたのに対し、家系犬のこの領域のアストロサイトにおいては、小胞体膜上に陽性像は確認されたものの、細胞膜上には陽性像は確認されなかった。 【考察】家系犬の大脳皮質脳溝深部のアストロサイトの細胞質内におけるGLT-1蛋白合成過程において、小胞体における蛋白合成までは正常に行われていることが確認された。今後、小胞体以降のGLT-1蛋白の合成過程(ゴルジ装置における糖付加など)および細胞膜への移送に関する検討が必要である。
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