研究概要 |
本研究は、北部ベトナムの市場で売られているアヒル卵が保有する移行抗体から、親鳥におけるH5N1亜型鳥インフルエンザウイルス(以下H5N1)の自然感染状況を把握し、食の安全に関する調査を目的とする。毎月、ハノイ市内の市場(10市場)から購入したアヒル卵(1市場10個)の卵黄からIgYを精製し、抗H5,H6,H9特異HI抗体保有状況を調べた。平成22年4月から平成24年3月までの間に合計2398検体の解析を行った。HI抗体保有率は抗H5が約44%、抗H6が11%、抗H9が1.2%であった。ベトナムでは、1年に2回抗H5N1ウイルスに対するワクチン接種を行っているため、抗体調査では、陽性抗体がワクチン接種によるものか、自然感染によるものかの区別は困難である。しかしながら、3ヶ月から5ヶ月周期で、抗体陽性率が変動していることから、H5(N1)ウイルスがアヒルの中で自然感染していることが予想される。また、調査を行った2年の間に、抗H6抗体陽性率が2010年4月に40%と2010年10月と11月にそれぞれ55%,51%を示し、この時期以外の陽性率は平均5%であったことから、アヒルの中で2回のH6亜型ウイルスの大規模な流行があったことが示唆される。最後に陸生鳥類が宿主であるH9ウイルスに対する抗体陽性率は2年間を通して1.2%だったことから、陸生鳥類から水禽類であるアヒルへのH9亜型ウイルスの感染拡大は少数であることもこれらの結果から示唆された。 本研究により、ベトナムでのインフルエンザウイルス流行調査に卵黄から精製したIgYを用いることで、有用な情報を得られることが証明された。また、疫学調査は長期間の監視を行うことが重要であり、卵黄を用いることで、安価かつ簡便に長期間の調査が可能となることが明らかになった。
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