本研究は、腸管からのボツリヌス毒素の吸収を抑制する方法を開発し家畜ボツリヌス中毒の予防法の確立に寄与することを目的とする。平成21年度までの研究で、家畜ボツリヌス中毒をひきおこすC、D型ボツリヌス毒素複合体が、ラット小腸上皮細胞上のシアル酸に結合してから吸収される可能性を示した。当初は本年度動物事件を行う予定であったが、いまだ効率的に動物を実験に供する条件を確立できていないことから、引き続き培養細胞を用いた実験を行った。ボツリヌス毒素はいくつかの無毒タンパク質が集合した毒素複合体を形成しており、腸管から吸収される際は無毒タンパク質の数が異なる数種類の毒素複合体の形で吸収されると考えられる。平成22年度は、神経毒素単独、あるいは毒素複合体のなかでどの形がもっとも多く吸収されるかを明らかにすることを試みた。 ボツリヌス菌D型4947株(D4947)が産生する神経毒素および様々な分子量の毒素複合体のラット小腸上皮細胞に対する結合量と透過量を調べた結果、HA-33分子を最も多く含む750kDa毒素複合体の結合量と透過量が最も多く、またその結合と透過はシアル酸を添加することで抑制された。このことから、家畜ボツリヌス中毒を引き起こすD型ボツリヌス毒素の腸管からの吸収を抑制するためには、HA-33分子をターゲットとし、HA-33の小腸上皮細胞への結合を阻害することで最も効率的に抑制できることが示唆された。
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