研究概要 |
牛の潜在性子宮内膜炎は診断基準が確立しておらず、臨床現場での診療方針も個々の獣医師の裁量で実施されているのが実情である。そこで今回、ウシの子宮内膜スメア中の多形核白血球の割合(PMN%)を測定することで分娩後早期の子宮内膜の炎症像をモニターすること、膣内留置型プロジェステロン製剤(PRID)を用いた排卵同期化処置が子宮内環境に与える影響、およびその後の繁殖成績との関連を明らかにすることを目的とした。検査開始日において分娩後平均22.4日の黒毛和種授乳牛14頭を供試、検査開始日をDay-7とし、Day 0にPRIDを挿入した。Day 7にPRIDを抜去、PGF2α製剤を筋肉内投与、Day 9にGnRH製剤を筋肉内投与した。14頭中8頭についてはDay 10に定時人工授精を行い(TAI群)、6頭はDay 17に定時胚移殖(TET群)を行い、Day 42に妊娠診断した。すべての供試牛についてDay-7,0,7および14の計4回、メトリチェックにより採取した腟粘液スコアと、サイトブラシにより採取した子宮内膜スメア中のPMN%を測定した。排卵同期化率は100%(14/14)であった。受胎率はTAI群が37.5%(3/8)、TET群が0%(0/6)であった。腟粘液スコアはPRID挿入により有意に増加し、PRID抜去後1週間で有意に減少した。供試牛の平均PMN%は分娩後日数の経過に伴い減少した。また、受胎3頭(受胎群)におけるDay 0での平均PMN%(3.2%)は不受胎11頭(不受胎群)(17.1%)と比較して有意に低かった。受胎群では全頭で同期化処置前後のPMN%が10%未満で推移した。以上の結果より、PRIDは分娩牛の子宮内環境に影響を与えないこと、分娩後30日以降における子宮内膜のPMN%が10%未満である個体への交配が受胎率向上につながることが推察された。
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