研究概要 |
21,22年度の検討でオピオイドが意識・行動および呼吸、心拍数におよぼす影響には、犬と猫で大きな違いがあること、薬物動態にも比較的大きな違いがあることが明らかになった。そこで本年度は、主作用である鎮痛作用に違いがあるか検討した。 まず健康な犬と猫を用いてフェンタニル投与が吸入麻酔薬イソフルランのMAC-BAR:MAC・blocking adrenergic responses(侵害刺激による心拍数と血圧の上昇を抑制する最小濃度)に与える影響を比較検討した。その結果犬では、イソフルランのMAC-BARはフェンタニルの用量依存性に最大75%低下したが、猫では最大38%と半分程度しか低下しなかった。MAC-BARの低下はフェンタニルの侵害刺激遮断作用を反映するため、猫におけるフェンタニルの侵害刺激遮断作用(=鎮痛作用)は、犬に比べて大幅に弱いと考えられた。 次にイソフルランとフェンタニルの持続投与により麻酔下で手術を行った犬猫の臨床例で、手術刺激に対する神経内分泌反応(心拍数、血圧、血中コルチゾール濃度、血糖値)の変動を比較検討した。犬では、術中の神経内分泌反応が抑制されていたが、猫では、血中コルチゾール以外の反応は抑制されなかった。この結果からも、猫におけるフェンタニルの侵害刺激遮断作用は犬よりも弱いことが示唆された。 21,22年度に行った検討結果から、猫ではオピオイドの代謝率が犬に比べて低く、血中濃度が高く維持されていた。本年度の結果と併せて考えると、オピオイドの作用の動物種差は薬物動態の違いに起因するのではなく、主に薬力学の違いによるものと結論された。
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