牛の発育不良の原因は、慢性的な肺炎や下痢、先天的な遺伝性疾患、飼育環境など様々である。このうち、特定の遺伝性疾患が原因と考えられる発育不良の原因遺伝子を同定することを研究の目的とした。マイクロサテライトDNAマーカを用いて原因遺伝子を検索したが、候補遺伝子は検索できなかった。この検索法は、原因遺伝子が単一の場合にしか検索できない。このため、発育不良には、複数の遺伝子が関わっている可能性が示唆された。そこで、正常牛と発育不良牛との間の遺伝子発現の違いから、候補遺伝子を検索するマイクロアレイ法を実施した。 マイクロアレイ法を用いて、正常牛と発育不良牛との間の遺伝子発現の違いを見た。その結果、正常牛に対して発育不良牛で2倍以上発現が減少していた遺伝子は954遺伝子あり、反対に正常牛に対して発育不良牛で2倍以上発現が上昇していた遺伝子は666遺伝子あった。 発育不良の病態については、これまでの研究で、肝臓のエネルギー代謝が低下していることが明らかとなっている。このため、肝臓のエネルギー代謝に関連する遺伝子をこれら遺伝子群から検索した結果、脂質代謝、コレステロール代謝、ステロイド代謝に関連する遺伝子が複数見つかった。これらの遺伝子は、どの遺伝子も、正常牛に対して発育不良牛で2倍以上発現が上昇していた遺伝子であり、正常牛に対する発現の有意差も高い遺伝子であった。この結果を別の方法で発現を検証する目的で、これらの遺伝子のうちいくつかをリアルタイムPCR法にて遺伝子発現量を確認したところ、やはり、マイクロアレイ法と同様で、正常牛に対して発育不良牛での発現量は高いと言う結果が示された。 今後、複数存在する候補遺伝子から、正常牛と発育不良牛との塩基配列の相違を確認し、原因遺伝子を絞っていく予定である。
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