産業動物医療において、牛複合性呼吸器疾患(BRDC : Bovine Respiratory Disease Complex)は発症率が非常に高く経済的損失が大きいため子牛下痢症と並ぶ 2 大疾病として注目されている。BRDC の治療プログラムを確立するためには、細菌学的アプローチと平行して病態生理学的解明を行うこと、また呼吸機能の改善を目的とした治療方法を抗生物質療法に併用することが必要である。本研究は BRDC 症例に対して、気管支鏡による画像診断、微量元素、エンドトキシン動態を中心に病態生理学的評価および高張食塩液の臨床薬理学的効果を評価した。その結果、 (1)デキストラン加高張食塩液(HSD) が脳循環に対し高い効果があることを明らかにし、HSD が救急医療現場において頭蓋内圧降下薬として高く期待できる。 (2)エンドトキシン試薬の溶媒として自家血清を用いて溶解後 15~60 分以内にボーラス投与すれば血清中エンドトキシン活性値が臨床症状の発現時期(30 分後)をピークとし、さらにチャレンジ後 12 時間以上高値を維持することを確認した。 (3)Mycoplasma 性気管支肺炎子牛では Fischer 比が健常子牛よりも有意に低値であ り、分岐鎖アミノ酸を強化した栄養輸液剤の適応が望まし い。 (4)Mycoplasma 性肺炎子牛の BALF では Ca および Zn 量が多く、亜鉛-銅比(Zn/Cu)が健常子牛よりも有意に高値であった(p (5)Mycoplasma 感染した BRDC 重症例では、気道内でエンドトキシンが著増しており、その一部が血漿中へ移行しているため、血中移行したエンドトキシンによって全身徴候が増悪する。 (6)血液中エンドトキシン活性値のモニタリングは甚急性乳房炎の予後および治療効果の判定に有用であることを明らかにした。これらの研究成果は、BRDC の治療プログラムを構築する上で極めて有用な情報である。
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