副腎皮質機能亢進症の臨床症状はコルチゾールの過剰分泌によりもたらされるが、正常な犬においてはこのコルチゾール自体が下垂体に作用し、コルチゾール産生を刺激する下垂体からのACTH産生を抑制することが知られている。一方で下垂体が腫瘍化した際にはこの抑制機構が正常のものに比べ、非常に弱いことが判明しているが、その具体的な機序は不明のままであった。我々の研究はコルチゾールを代謝しその活性を失わせる11β-Hydroxysteroid dehydrogenase type 2酵素の発現が正常な犬下垂体ACTH産生細胞と比較し、犬下垂体ACTH産生腺腫では増大しており、またコルチゾールがその作用を及ぼすのに必要な受容体であるglucocorticoid receptorの発現が減少していることを明らかとした。これらの変化によりコルチゾールの代謝促進および受容体減少による作用の減弱が起こるものと推察された。しかし、遺伝子発現様式の変化のみでは実際にどの程度この抑制機構減弱に関与しているのか不明である。またこれらの発現様式変化がコルチゾール分泌過剰によりもたらされている可能性も考えられる。そのため、我々は下垂体ACTH産生腺腫および正常下垂体細胞の培養系を確立し、実際に培養細胞を用いてコルチゾールが代謝酵素および受容体発現に及ぼす影響の検討、さらには代謝酵素および受容体発現の変化がコルチゾール代謝、作用に及ぼす影響の研究を現在進めている。
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