高齢犬は成犬と比較して精液性状が低下し、凍結融解後の性状にも影響を及ぼすことが示唆される。そこで、高齢犬精子の凍結融解後の性状を改善させることを目的に、高齢犬と成犬の凍結保存前後の精液性状の比較および加齢に伴う凍結精液の性状の影響を調べ(実験1)、高齢犬凍結精液作成におけるグリセリン濃度およびグリセリン平衡時間についての検討(実験2)を行った。 供試動物は、当研究室で飼育されている9歳の高齢犬ビーグル3頭と2~5歳の成犬ビーグル4頭を使用した。 まず実験1として、それぞれの犬から精液を採取した後、既報の方法で凍結精液を作成し、融解後の精液性状を比較した。その結果、高齢犬と成犬の凍結前の精液性状には差はみられなかったが、融解後には高齢犬で精子活力の有意な低下(P<0.01)がみられることが明らかとなった。次に、同一個体の1歳時と9歳時に同じ方法で凍結精液を作成し、融解したデータを比較した。その結果、凍結前は両者で有意差はみられなかったが、融解後の精液性状は9歳時に作成したものが1歳時のものと比較して有意に低値を示し(P<0.01)、凍結融解後の精液性状は加齢に伴って変化することが明らかとなった。両者のデータを分析すると、グリセリン平衡後から精液性状が低値を示す傾向が明らかとなったため、グリセリンが高齢犬の精液に対して影響を与えていることが示唆された。そこで実験2として、グリセリンが精子に与える毒性に着目して、高齢犬と成犬でそれぞれ最終グリセリン濃度が2%、4%、7%となるように、それぞれグリセリン平衡時間を30分、60分、120分と設定して凍結精液を作成、すなわち全部で9グループの実験群を設定し、凍結融解後の性状からグリセリンの影響を比較検討した。その結果、グリセリン濃度に関して、凍結融解後の精子活力が成犬ではグリセリン4~7%の濃度でほぼ同様の値を示したのに対し、高齢犬では4%に比較して7%では低値を示した。グリセリン平衡時間に関して、成犬では30~120分までほとんど差がみられなかったのに対し、高齢犬では30~60分に対して120分でやや精子活力が低値を示した。 以上の成績から、高齢犬は成犬と比較するとグリセリンの悪影響を受けやすく、高齢犬の凍結精液を作成する際にはグリセリン濃度は既報の7%よりも4%で良い成績を得られることが明らかとなった。
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