本研究は腫瘍のリンパ行性転移経路の解明に焦点を絞り、犬の乳腺のリンパ流路を調べることを目的にしている。平成21年度ではリンパ排導路の追跡とその可視化のための技術的な検討をした。平成22年度ではそれを生かして、乳腺を対象に造影剤を皮下に直接投与しCT像を撮影する事で、明瞭なリンパ流路が得られるよう、より簡単なリンパ管造影法を検討した。また生体下の肝臓および胃へ臨床実験的にIndian Inkを投与しそれが最初に到達するリンパ節群を解剖標本上で検討した。実験はビーグル犬を用い、全身麻酔後、乳腺各乳頭部の乳頭直下およびその周囲の皮下直下に水溶性造影剤を投与し、マッサージの後CT撮影(X線撮影も)を行い、3D再構築を行った。同時に同部位にIndian Inkを注入して観察を行った。その結果、CT撮影ではイオパミドール370、0.2ml/kgの投与において乳腺各部位からの明瞭にリンパ管や所属リンパ節が描出された。また3D再構築を行う事でより立体的にリンパ管が観察された。これらの観察で、犬では乳腺各部でリンパ流路が異なり、第1および第2乳腺からの排導は同側の腋窩リンパ節に、しかし一部は胸腔内に入って胸骨リンパ管を前進する例も見られた。また第3乳腺からは前方の同側の腋窩リンパ節および後方の同側浅鼠径リンパ節の2方向に行くもの、あるいは後方の同側浅鼠径リンパ節のみに行くものがあった。第4乳腺および第5乳腺からは同側浅鼠径リンパ節に行くものが多かったが、一部では反対側の同リンパ節に向かうものも見られ、乳腺からのリンパ流路には個体差も大きいことがわかった。肝臓および胃からは最終的には腸間膜リンパ節に向かうが、sentinel lymph nodeなど詳細については現在も観察を続けている。乳腺腫瘍はリンパ行性であることが知られているが、個体差の大きい乳腺からのリンパ流路をこのような簡便な方法で造影し、CT像で描出することで、転移経路上にある所属リンパ節を正確に確認でき、適切なリンパ節郭清と予後判断が可能となることが明らかになった。
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