本研究は、インド・タミルナードゥ州のため池灌漑地域を対象として、かつて貧困削減を目的として導入されたものの、その急速な占有面積拡大が現在大きな問題となっている、マメ科灌木プロソピス(Prosopis spp.)を視点の中心として研究を進め、インド半乾燥地域の農村地帯における今後の発展径路を描き出すことを目的とする。 平成22年度は、まず、21年度に入手した高解像度衛星画像(2002、2009年撮影)と土地台帳(1994、2007年)を基にした分析を行った。最初に、研究対象としているP.Pudupatti村のため池受益地を、地片ごとに分割したGISマップを作成した。さらに、1994年および2007年の土地台帳に記載されている、各地片の作目を整理した。また、衛星画像を分析してプロソピス占有面積の変化を推定した。その結果、(1)ため池受益地全面積107.071haのうち、1994年には71%の受益地で作付(水稲100%)が行われていたが、2007年ではわずかに18%の受益地でしか作付(水稲51%、トウジンビエ19%、ワタ30%)が行われていないこと、(2)同受益地におけるプロソピスの占有面積が2002年5月の39.95Haから2009年5月の67.12Haと、7年間で約1.7倍に増加していることが明らかになった。 この結果を踏まえ、過去10年間におけるプロソピス占有面積の拡大が世帯収入に及ぼす影響を明らかにする目的で、2011年1月~2月にかけて、P.Pusupatti居住の全世帯を対象に、家族構成及び過去10年間の世帯収入の農業収入、非農業収入、土地所有、作付作物などに関する質問票調査を、タミルナードゥ農科大学の協力の下、実施した。取得したデータは現在分析中であるが、その結果は2011年度中に論文として成果を公表する予定である。 また、「ため池受益地を耕作する農民が経済的合理性に基づいて作目選択をした結果、受益地全体の農業的水利用が如何に変化するか」を推定するための、マルチエージェントモデルの構築に2010年12月より着手した。前述の質問票調査の結果を取り込みながらモデルを完成させ、この分析結果についても2011年度中に論文として成果を公表する予定である。
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