研究課題
石油資源の枯渇と地球温暖化問題への対応が急がれている中で、木質系バイオマスは、食糧と競合しない循環型のバイオマス資源として、その変換利用に社会的要請が高まりつつある。担子菌類に属する白色腐朽菌は、木材中に存在する難分解性の高分子リグニンを分解する能力を持っており、その特有の酵素群を大量に調整しリグノセルロースの糖化の際に併せて用いることができれば、前処理に必要とされるエネルギーや酸などの環境負荷を大きく低減することが期待されている。本研究は、白色腐朽菌のリグニン分解酵素生産のメカニズムについて分子生物学的なメスを入れることを目的とする。本年度は、初年度に引き続き子嚢菌で報告されているタンパク質折りたたみ制御系のhacA遺伝子のホモログのクローニングを行ったが、繰り返し検討を行ったがポジティブなクローンは得られなかった。このことは担子菌では子嚢菌と異なる独特なタンパク質分泌系を持っていることを示唆するものと考えられる。一方、白色腐朽菌における遺伝子発現の開始をコントロールするプロモーターの活性評価系は、これまで有効なものが存在していなかった。今回の研究では、染色体上への組込み位置やコピー数による影響を受けない一過性の遺伝子発現系を用いて、正確にプロモーター活性を測定することができるアッセイ系を担子菌類では初めて開発し、担子菌類における遺伝子の転写開始に必要な配列の解析を可能とする新しい研究の方向性を見出すに至った。この系は、遺伝子の転写開始の制御機構の解明だけではなく、転写物の成熟に必要となる配列や、翻訳開始に必要となる配列、翻訳効率の変化など、担子菌類における遺伝子発現の様々なフェーズの解析に用いることができるため、当該分野における基礎科学の進展と、応用に向けた障壁の除去のための基盤となることが期待される。
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