研究概要 |
申請者は、大気中の二酸化窒素(NO_2)が、植物の生育やバイオマス量をシグナル的に増加させることを世界に先駆けて発見し、この効果をバイタリゼーションと命名した(Takahashi et al., New Phytol.2005)。この効果は、各種作物に認められ、顕著に効果を現す遺伝子が存在する。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)において、この効果によるバイオマス増加は、C24>Columbiaであった。この効果の高い遺伝子を特定して、協調的に発現する遺伝子群やNO_2により活性化される代謝系の解明など、バイタリゼーション分子機構の理解が進むと、省資源で環境負荷もなく、しかも農業生産性を高めうる夢の技術の開発を目指した新しい研究領域が創出される。形態学的解析からシロイヌナズナのバイタリゼーションによる葉サイズ増加は、細胞数の増加ではなく、細胞拡大(細胞当たりの面積の増加)に起因することが分かっている。本年度は、細胞拡大の機構について解析した。シロイヌナズナ(C24)をNO_2含む空気または含まない空気下で栽培(それぞれ+NO_2植物、-NO_2植物と呼ぶ)して、4週間後に葉を収穫、細胞核の倍数性レベルをフローサイトメトリー解析した。その結果、+NO_2植物と-NO_2植物との間に倍数性レベルに差は観られなかった。故に、バイタリゼーションによる細胞拡大は、核内倍加に因るものではない。次に、細胞拡大に関与する遺伝子13個について、+NO_2植物と-NO_2植物におけるこれら遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより経時的(1~3週間)に比較解析した。その結果、10個の遺伝子で有意な差が認められた。2遺伝子の発現量は、+NO_2植物>-NO_2植物であり、8遺伝子の発現量は、-NO_2植物>+NO_2植物であった。次年度は、これらの遺伝子と共発現する遺伝子群や代謝系の解明を進める。
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