申請者は、大気中の二酸化窒素がシグナル的に植物細胞の(細胞分裂ではなく)拡大成長を促進し、バイオマスを増加させることをすでに報告し、バイタリゼーションと命名した。これまでに、フローサイトメトリー解析により、バイタリゼーションによる細胞拡大は、核内倍加に起因するものではなく、何らかの細胞拡大遺伝子の関与が示唆された。 二酸化窒素(50ppb)を含む空気中または二酸化窒素を含まない空気中で栽培(1~3週間)したシロイヌナズナにおける遺伝子発現をリアルタイムPCRにより経時的に解析した。その結果、細胞拡大遺伝子の発現量が二酸化窒素存在下で有意に増加(ATHB16、TOR、NAC1、RON2)のまたは減少(OBP2、ARL)した。シロイヌナズナ・トランスクリプトーム共発現データベースATTED-IIを用いて、これらの遺伝子と共発現する遺伝子群の解析を行い、共発現遺伝子群を代謝マップにマッピングし、エチレンシグナル伝達経路遺伝子、塩ストレス応答遺伝子などがバイタリゼーションにおいて共発現関係にあることが新たに明らかとなった。 シロイヌナズナ・トランスクリプトーム解析により、申請者が取得したVITA1遺伝子(機能アノテーションがないが、82残基の機能未知のタンパク質をコードする)の過剰発現体は、二酸化窒素非存在下でバイオマスは野生株比で有意に(1.3倍)増加した。故に、VITA1は、何らかの新規細胞拡大/細胞分裂促進遺伝子であり、バイタリゼーション原因遺伝子の一つである。また、過剰発現体のバイオマスは二酸化窒素存在下で野生株の2.6倍に増加した。この結果から、VITA1以外に別のバイタリゼーション原因遺伝子(細胞拡大遺伝子)が存在し、それらはVITA1と協調して発現しているものと推定した。
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