本研究では、未利用木質の有用資源への変換を行う効率的なバイオリアクター系開発を最終的な目的として、リグニン分解能を高めた白色腐朽菌の育種について研究している。具体的には、白色腐朽菌におけるリグニン分解の初発反応を担うリグニン分解酵素を制御しているシステムを解明し、育種ターゲットとしての有効性を検討する。 昨年度までに、代表的な白色腐朽菌、Phanerochaete chrysosporiumのリグニン分解酵素遺伝子群の転写にはカルモデュリン(CaM)が関与していることを明らかとした。一般に、CaMは様々なCaM相互作用タンパクの活性を調節することで様々な生理学的現象を調節していることで知られている。本年度は、リグニン分解酵素発現時のcDNA断片から調製したファージディスプレイライブラリにおいてCaM結合性のものだけを分収し、リグニン分解酵素発現に関与する推定的CaM相互作用タンパクの検索を行った。結果としては、Caイオンシグナル関連因子、転写因子、酸化ストレス応答因子などが得られた。 リグニン分解酵素発現時には細胞内cAMP濃度が上昇すると言われているが、直接的な関係性については分かっていない。本研究において、培養物に外部からcAMPとcAMP分解酵素阻害剤(IBMX)を添加したところ、リグニン分解酵素活性が上昇することを発見した。この効果はCaM阻害剤(W-7)により打ち消されることも判明した。つまり、リグニン分解酵素発現において、細胞内cAMP濃度上昇がまず起こり、その後にCaMが働くという経路が強く示唆される。
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