本研究では、鳥マラリアなどのベクター媒介性感染症の分布域の変化を指標に、環境変化を生物学的に検出するシステムの構築を行うことを目的としている。そのため、国内各地のモニタリングサイトで、野鳥や飼育鳥類の血液を採取し、さらに現地に生息するベクターとなる吸血昆虫を採集し、病原体の遺伝子の検出および系統解析を行い、病原体保有状況およびベクター昆虫種の解明を試みている。 本年度は新たに高標高森林地域における鳥類の原虫保有状況も調査した。これまでに、北海道釧路湿原、秋田県内動物園、埼玉県秩父山系、東京都内動物園、長野県北アルプス、長崎県対馬市、大分県内動物園および沖縄県石垣嶋において、鳥マラリア感染の主要なベクターである各種蚊における原虫保有状況および吸血対象動物種を明らかにした。特に、動物園における調査では、飼育動物種が明らかであることや園内環境の把握が容易なことから、ベクターとなる蚊の生態が病原体伝播に密接に関連していることが示唆され、動物園がベクター媒介性感染症のモニタリングモデルとなる可能性が考えられた。また、新たなモニタリング地域として、鳥類の生態調査を定期的に行っている森林地帯における調査を行ったところ、宿主鳥類の生活様式と原虫保有率に何らかの関連があることが示唆された。 最終年度となる平成23年度は、各モニタリングサイトにおける鳥類宿主およびベクターの病原体保有状況と病原体の遺伝子系統を解析し、気温・湿度などの外部要因も勘案して、病原体分布域の変化の検出を試み、環境モニタリングシステムとしての評価を行う予定である。
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