研究課題
本研究では、鳥マラリアなどのベクター媒介性感染症の分布状況の変化を指標に、国内における環境の変化を生物学的に検出するシステムの構築を行うことを目的としてきた。そのため、国内各地にモニタリングサイトを設置し、野鳥や飼育鳥類の血液を採取し、さらに現地に生息するベクターとなる吸血昆虫を採集し、病原体の遺伝子の検出および系統解析を行い、病原体保有状況およびベクター昆虫種の解明を試みてきた。最終年度には、これまでに調査してきた地域で鳥類およびベクター昆虫から検出された原虫系統を網羅的に分子系統解析し、分布状況変化の検知のための基盤となる情報が得られた。特に、ベクターから検出される原虫系統は、行動範囲が広い宿主鳥類に比べ、調査した時期に、その地域で伝播が成立している系統と考えられることから、調査時における原虫の分布状況を的確に示す材料となり得ることが示唆された。解析の結果、日本の蚊から検出された鳥マラリア原虫は10系統に分類されたが、蚊の種類と原虫系統の相関は認められず、これまでのところ原虫のベクターに対する特異性はないものと考えられた。また、蚊の捕集地別に検出された原虫の系統を比較したところ、捕集地のみに見られる系統と、複数の捕集地で見られる系統が認められた。よって国内には各地域共通の系統と地域特異的な原虫系統とが、モザイク状に分布していることが示唆された。以上、本研究により、各モニタリングサイトにおける鳥類宿主およびベクターの病原体保有状況と病原体の遺伝子系統が明らかとなり、気温・湿度などの外部要因も勘案した病原体分布域の変化の検出を試みるモニタリング体制が整ったと考える。
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