研究概要 |
平成21年度は,分化成長中の植物組織中に存在する遊離アスパラギン結合型糖鎖の生産に関わる2種の酵素(endo-β-NacetylglUsaminidasae, ENGaseとpeptide : N-glycanase, PNGase)について,トマト果実由来の酵素の遺伝子同定と大腸菌による発現系の構築を行った。トマトENGaseについては,我々が既にイネ培養細胞で明らかにしているENGase遺伝子をもとに遺伝子クローニングを行い,組み換え酵素のキャラクタリゼーションを行った。組換えENGaseはネイティブ酵素と同様に,Manα1-2Man残基を有するハイマンノース型糖鎖に対して強い加水分解活性を示した。トマト果実の後期熟成過程におけるENGase遺伝子の発現変動をReal-time PCR法で解析し,ENGase遺伝子が常に一定レベルで発現していることを明らかにした。一方,遊離糖鎖の生成量は果実熟成に従って顕著に増加することを既に明らかにしており,この遊離糖鎖の増加は,酵素の発現量ではなく,基質となるミスフォールドした新生タンパク質の増加を反映していることが推察された。また,ENGase遺伝子をノックアウトした変異株の作製を行ったところ,ENGase遺伝子の発現制御が植物の分化過程に大きく影響を及ぼす可能性が明らかになった。更に,アラビドプシスについても,2種のENGase様遺伝子をダブルノックアウトした変異株を作成し,その2つの遺伝子が共にENGaseをコードしていることを証明した。このダブルノックアウト株は発芽率が野生株に比べて低いものの,発芽後の成長には灘槻られなかった。次に,糖タンパク質からの糖鎖遊離を司るもう一つの酵素であるPNGaseについても,トマト酵素遺伝子の同定を完了した。植物には,細胞質で機能する中性PNGaseと液胞あるいは細胞壁中で機能する酸性PNGaseの2種PNGaseが存在する。21年度には,酸性PNGaseの遺伝子を同定し,酵母による発現系を構築した。本酵素は至適pHが4.5付近,複合型糖鎖を糖ペプチドから遊離させた。系統樹解析から,酸性PNGaseは細胞質PNGaseとは相関がなく,植物成長や分化に関わる別の脱グリコシル化機構に関与することが示唆された。
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