本研究は、サイトゾルから葉緑体への蛋白質輸送過程における葉緑体外・内包膜に存在する蛋白質輸送装置(トランスロコン)と輸送基質である前駆体蛋白質との間の分子間相互作用を明らかにすることで、葉緑体への蛋白質輸送の仕組みの解明を目的としている。研究代表者は、葉緑体蛋白質輸送の初期段階では、エネルギーに依存して前駆体蛋白質の到達度の異なる少なくとも3種の膜透過中間体が存在すること、光反応性架橋剤MBPを用いた部位特異的架橋法を用いた実験から、異なる膜透過中間体中では、前駆体蛋白質の架橋剤を導入した位置に依存して、異なる架橋複合体が形成されることを明らかにしてきた。 これらの結果を踏まえ、本研究では、平成21年度中に、これらの架橋複合体を1.大量に調整・2.精製し、3.同定を行うことを計画した。さらに、上記課題と並行して、4.既知因子との架橋複合体の同定をトランスロコン因子に対する抗体や放射ラベルしたトランスロコン因子の利用により行うことを計画した。これらの課題から得られた結果は以下のとおりである。 1. MBPを用いた架橋反応を繰り返し行い、架橋複合体の同定を行うために必要な架橋複合体を含む葉緑体を大量に調整した。 2. 前駆体蛋白質に導入しているエピトープタグを利用して、架橋複合体の精製を行った。十分量精製されていると考えられるものの銀染色で検出できなかった。 3. 上記2項の結果から、架橋複合体の同定の試みはなされていない。 4. システイン残基同士を架橋するDTNBを用いた架橋実験により得られた架橋複合体が、内包膜トランスロコン因子Tic22に対する抗体によって検出された。そこで、Tic22のどの部分が前駆体蛋白質と相互作用するのかを調べるためにTic22の有する2か所のシステイン残基に変異を導入したTic22を発現するためのプラスミドを作製した。
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