本研究は、サイトゾルから葉緑体への蛋白質輸送過程における葉緑体外・内包膜に存在する蛋白質輸送装置と輸送基質である前駆体蛋白質との分子間相互作用を明らかにすることで、葉緑体への蛋白質輸送の仕組みの解明を目的としている。研究代表者は、葉緑体蛋白質輸送の初期段階では、エネルギーに依存して前駆体蛋白質の到達度の異なる少なくとも3種の膜透過中間体が存在すること、光反応性架橋剤MBPを用いた部位特異的架橋法を用いた実験から、異なる膜透過中間体中では、前駆体蛋白質の架橋剤を導入した位置に依存して、異なる架橋複合体が形成されることを明らかにしてきた。 平成21年度においては、これらの架橋複合体を精製した後、架橋複合体の構成因子を同定することを最重要課題として取り組んだが、精製架橋産物の検出に難があり、計画通りに研究が展開できなかった。そのため、平成22年度においては、この問題を解決するために、当初の計画にもあった、「架橋反応を適用しない膜透過中間体の解析」と「立体障害を有することで蛋白質膜透過が途中で停止することで形成される後期膜透過中間体の解析」への取り組みも視野に入れ、前駆体蛋白質に付加するエピトープタグの検討、精製における蛍光技術適用の検討を行った。 その結果、前駆体蛋白質中の成熟体部位のアミノ末端部に前駆体蛋白質検出用のエピトープタグを挿入した上で、カルボキシ末端に別プロジェクトで蛋白質精製に有効であった、Strep-tagIIタグをタンデムに連結したOne-STrEPタグ、また、Ca^<2+>の存在下で特異的に結合するDockerinとCohesinの蛋白質相互作用を利用するDockタグを付加した前駆体蛋白質を調製した。これらの前駆体蛋白質を用いても、初期膜透過中間体を従来通り観察することができた。また、前駆体蛋白質を蛍光物質で修飾することで、蛍光イメージアナライザーを用いて前駆体蛋白質を簡便かつ迅速に検出できることを明らかにした。
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