研究概要 |
平成21年度は,酸性官能基と塩基性官能基を同一分子内に併せ持ち,pseudo-ortho置換[2.2]パラシクロファンを基本骨格とする不斉有機分子触媒の創製を目指し,その第一弾としてシクロファンのpseudo-ortho位にジフェニルホスフィノ基及びヒドロキシ基を配置した分子を設計・合成した。ヒドロキシ基は,[2.2]パラシクロファン骨格に直結させず,スペーサーとして働くベンゼン環を介して導入することとした。市販の[2.2]パラシクロファンを出発原料とし,pseudo-ortho位への臭素原子の導入,2つのうちの一方の臭素原子のヒドロキシ基への変換を経て,(R)-カンファノイルエステルとした後,カラムクロマトグラフィーにて光学分割を行った。エステルを加水分解してアルコールに戻した後トリフラートとし,臭素部位にジフェニルホスフィノ基を,スルホニルオキシ部位にmeta-フェノール(スペーサーとヒドロキシ基)を,それぞれ導入した。合成したホスフィン-フェノール二官能性分子の不斉有機分子触媒としての能力を評価する目的で,トシルイミンとメチルビニルケトンとのアザ-Morita-Baylis-Hilman反応を検討したところ,最高不斉収率77%でトシルアミノケトンが得られた。本反応にフェノール性水酸基をメチル基で保護したホスフィン触媒を作用させると,反応速度が低下し不斉収率が激減したため,設計した分子のフェノール部位が触媒部位として期待通りに働いていることが示唆された。すなわち本研究により,pseudo-ortho置換[2.2]パラシクロファン骨格が不斉有機分子触媒の新規な母核として働く可能性が示された。
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