研究概要 |
顕著な生物活性や機能性を有する分子の多くは,密集した官能基をその骨格内に有している.我々は,こうした分子の構築に革新的なアプローチをもたらす合成ラジカル化学に着目し,創薬分野において注目を集める種々の生物活性天然物の合成の新手法と新戦略を確立すべく研究を行った.すなわち,申請者らが独自に見出したフリーラジカル種の水素引き抜き反応や高度に官能基化された有機分子の一挙構築をもたらすラジカルアニュレーション反応を基盤として,創薬の有望なリードとなる種々の官能基密集型生物活性分子の効率的な合成経路の開拓を試みた.その結果,本平成22年度においては,紫外線による炭素-水素(C-H)結合の切断を鍵とする含窒素化合物の新規官能基化反応を新たに見出すとともに,本反応を基盤としてピロリジン誘導体からプロリン誘導体を一挙に効率的に合成する新経路を確立し,興味深い生物活性を有するカイニン酸およびサラインの全合成中間体を獲得することに成功した.また,遷移金属によるラジカル環化を鍵として,複雑な縮環骨格を有し,新しい作用機序を有する抗生物質として高い注目を集めているプラテンシンならびにプラテンシマイシンの基本骨格の合成にも成功した.プラテンシン類の合成においては,非常に立体障害の大きい4級炭素中心を標的分子の骨格に一挙に組みこむことが可能となり,目的物に至る従来のアプローチをより効率化する端緒をつかむことができた.
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