スピロライドは特異な神経毒性を有する大環状アルカロイドである。本化合物はL型カルシウムチャンネルに作用することが知られているが、既存のレセプターには結合性を示さないことから、未知のレセプターと結合し毒性発現している可能性がある。従って本化合物は、新たな神経薬理学研究のツールや新規な脳神経治療薬のリード化合物となり得る。本研究では、スピロライドの合成を達成し、未だに決定されていない構造を完全に決定するとともに、脳神経疾患に係わる創薬に貢献することを目的とする。我々はこれまでに、tBuBOXやsiamを用いたキラル銅触媒により6員環や7員環ラクタムとジエンのDiels-Alder反応が高立体選択的かつ収率よく進行することを見出した。この結果を踏まえ、今年度は、スピロライドの不斉銅試薬によるDiels-Alder反応でアザスピロ環状骨格を構築する方法を検討した。直鎖ジエンを基質とすると反応の進行は非常に遅く実用的でなかったが、ヒトラヒドロフラン環でs-cis配座に固定したジエンを用いると反応が格段に早く進行し、望む立体化学を有するアザスピロ環が得られることを見出した。また、スピロライドの類縁化合物であるギムノジミンの合成も併せて行った。ギムノジミンのアザスピロ環状骨格を同様に不斉Diels-Alder反応で構築できることを見出した。また、新たにClaisen転位反応による骨格形成を計画し、転位反応の基質を効率よく合成する方法を確立した。
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