研究概要 |
スピロライドは特異な神経毒性を有する大環状アルカロイドである。本化合物は当初L型カルシウムチャンネルに作用すると言われてきたが、最近になり13-デスメチルスピロライドCがニコチン受容体に作用することが明らかになっている。本化合物は、新たな神経薬理学研究のツールや神経治療薬のリード化合物となり得る。本研究の目的はスピロライドの合成法を確立し、未だに決定されていない構造を完全に決定するとともに、脳神経疾患に係わる創薬に貢献することである。スピロライドのアザスピロ環状骨格は活性発現に重要であることが知られており、また本骨格は生体内ではエキソ選択的なDiels-Alder反応により合成されていると考えられている。従って、生物活性的にも合成的にも、本アザスピロ環状骨格の構築は興味が持たれた。我々はモデル実験において銅触媒を用いる不斉Diels-Alder反応による本骨格の構築に成功しているが,官能基化された実際の基質においては低収率に終わった。そこで、種々のエキソ選択的Diels-Alder反応の検討を行った。(1)スピロライドの下部フラグメントの合成;下部フラグメントの合成は既に報告した方法を応用することで達成した。さらに炭素鎖の伸長を行い、スピロライドの下部フラグメントに相当する重要中間体を得ることに成功した。(2)スピロライドの上部フラグメントの合成;市販のエステルをリン酸エステルに誘導した後、ジエノール体を得た。得られた生成物とアクリル酸エステルを基質とし、キラルテンプレートルイス酸を用いたDiels-Alder反応を行った。すると、高収率で望むエンド付加体がラクトン化合物として得られた。本反応では基質の有する不斉中心と関係なく、キラルテンプレートの立体化学に依存し、選択的にラクトンが得られた。また、キラルテンプレートとしてオクタヒドロジナフトールを用いると、ジアステレオ選択性がさらに向上し、触媒化が可能であり、20mol%でも良好な収率で望む化合物を与えることが判明した。
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