研究概要 |
1)ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤FK228の類縁体合成に関する研究 FK228(ロミデプシン)は、優れたヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害作用を示し、新しい分子標的抗がん剤のリード化合物として注目されている。すでに申請者らは、光延型マクロラクトン化反応を機軸としたFK228の合成法を確立している。本年度は、この合成法を基軸としてFK228の類縁体であるスピルコスタチンCおよびDの全合成を達成した。 さらに、スピルコスタチンCおよびDに加え、新たに4種類のFK228類縁体を合成し、HDAC阻害活性ならびに種々のヒト癌細胞増殖抑制活性に関する評価を行った。その結果、スピルコスタチンDが、FK228(ロミデプシン)より優れたHDAC阻害活性を有することが判明した。現在、これらの生物活性評価を基にした構造活性相関研究を行っており、より優れたHDAC阻害活性およびアイソフォーム選択性を有する分子標的抗がん剤の開発を目指し研究を行っている。 2)p21rasファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤TAN-1813の全合成に関する研究 TAN-1813は2000年、武田薬品の研究グループにより、真菌類であるphoma sp.FL-41510の培養液から単離・構造決定された天然物であり、優れたRasファルネシルトランスフェラーゼ阻害作用(IC50=2.3μM)を有し、新規抗がん剤として期待されている。このT姻-1813は、核間位(4a位)およびその隣接位(5位)の立体化学および絶対配置が未決定であるが、熱力学的安定性を考慮した推定構造(4aR,5S)で合成し、完全化学合成を達成すると共に天然物の絶対配置を決定することを目的として行った。本年度は、TAN-1813の上部構造であるマレイミドセグメントと下部構造に相当するアルデヒドとのモデルカップリング反応を検討した。その結果、上部構造部位として無水コハク酸、無水マレイン酸、マレイミド、およびN-アルキルマレイミドを用いた種々のカップリング反応(Morita-Baylis-Hillman反応など)を行い、N-アルキルマレイミドを用いたときに、カップリングする可能性があることを見出した。現在、この結果を基に反応条件の最適化を行っている。
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