研究概要 |
これまで申請計画に従って、光学活性アリルアルコールを原料に、1,3-不斉転写を伴う光学活性酸素環状化合物や窒素環状化合物への環化反応の研究を行なって来たが、平成23年度は以下の結果を得る事が出来た。 (1)アピクラレンAの誘導体と抗がん活性;前年度には、がん細胞に対してナノモルレベルの濃度で強力な殺細胞毒性を有する抗がん活性天然化合物アピクラレンAの全合成を達成できた。その鍵となる環化反応には、PdCl_2(CH_3CN)_2を触媒に用い1,3-不斉転写を伴う2級水酸基によるエンド型環化反応で、ジヒドロピラン環が立体化学を制御して形成された。このジヒドロピラン環上のアルケンを利用して、10位11位の修飾を行ないアピクラレンAの誘導体を合成した。その結果、10-11位デヒドロ体がアピクラレンAと同等の抗がん活性を示すことを見出した。特に前立腺がん細胞に対しては3倍の強い活性を示すことを明らかにすることが出来た。 (2)窒素環状化合物の合成;1,3-不斉転写を伴う光学活性窒素環状化合物の一環として、光学活性テトラヒドロイソキノリンの合成についていくつかの新しい触媒を見出した。ビスマストリフラートや過塩素酸、メチルトリフラートを触媒とする方法では2価Pd触媒による環化を上回る、高い不斉収率、高い化学収率で光学活性テトラヒドロイソキノリンが得られる事を見いだした。そして、この方法を、ピロロイソキノリンアルカロイドである(-)-trolline,(+)-crispin A,(+)-oleracein Eの全合成に用い、それを達成することが出来た。また、この方法を光学活性β-カルボリン骨格の合成に用いたところ、インドール環上の窒素電子対の影響で1,3-不斉転写率が大きく減少することが分かった。
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