本研究は、膜ドメイン(脂質ラフト)がどのような分子機構に基づいて形成され、タンパク質の構造と機能を制御しているかを、構造生物学の立場から解明することを目的とする。21年度に行なった研究により、アミロイドβペプチド(Aβ)は液晶相の膜とは結合しないが、ラメラゲル相の膜に対しては結合することがわかった。このことは、膜ドメインの主成分であるスフィンゴミエリンの脂質二重膜についても確認された。以上の結果から、Aβが脂質膜の膜ドメインに集積することは、膜ドメインにおいて、スフィンゴミエリン分子が密にパッキングされていることと関係している可能性が示された。上記の知見を踏まえて、22年度にはタンパク質の膜ドメイン集積のメカニズムを解明するための研究を行い、次の成果を得た。 (1)膜ドメイン中の脂質膜はコレステロールを豊富に含むため、ラメラゲル相ではなく秩序液体相をとると考えられる。そこで、コレステロールを含む脂質膜に対するAβの結合をチロシン残基の蛍光を利用して調べた。蛍光強度の温度依存性の解析から、コレステロールを含む脂質膜であっても、脂質分子が密にパッキングされている方がAβペプチドに対して高い親和性を持つことがわかった。Aβが結合した膜が秩序液体相であるか否かについては、23年度の研究により明らかにする予定である。 (2)脂質膜の相に依存する親和性の変化が、タンパク質側のどのような性質に起因するか調べるため、種々のタンパク質と脂質膜の相互作用の温度依存性を調べた。その結果、卵白リゾチームのような、通常は脂質膜に対して親和性を持たない球状タンパク質でも、ゲル相の膜に対しては結合する可能性が示された。さらにタンパク質の種類を増やし、得られるデータを多角的に解析することにより、タンパク質の膜ドメイン集積のメカニズムが明らかになると期待される。
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