近年、タンデム型質量分析器(MS/MS)が開発され、HPLCを組み合わせたLC/MS/MS法が、分析化学、生命化学、臨床化学、環境化学など広い分野で用いられるようになっている。本研究は、LC/MS/MS法における検出感度、選択性の向上のための標識試薬を開発することを第一の目的とした。そして、開発した標識試薬を用いて、疾患のマーカーとなる生体分子の高感度分析法の開発、さらには特定の官能基を有する生体分子の網羅的解析法を開発することを第二の目的とした。 既に、平成21年度までに、LC/MS/MS用標識試薬として、DAABD-AE(カルボン基用)、DAABD-ABおよびDAABD-AP(短鎖カルボン酸用)、DAABD-MHz(カルボニル基用)などを開発した。また、DAABD-AEを用いた、血漿中極長鎖脂肪酸(炭素鎖20~26)の高感度分析法により、先天性代謝異常症の検査が可能であることを報告した。 しかし、現在、これらの試薬類は市販されていないため、開発した分析法を利用できる施設は限られていた。そこで、平成22年度は、より汎用性の高い分析系を開発するために、市販の試薬の中からLC/MS/MSに適したものを探索した。LC/MS/MS用標識試薬に適する構造を有する試薬として、3-pyridyl isothiocyanate、p-(dimethylamino)phenyl isothiocyanate、m-nitrophenyl isothiocyanateを候補として選択し、アミノ基用標識試薬としての有用性を検討した。これらの試薬は、いずれも、脂肪族アミンと、60度、20分以内に反応した。生じた標識化体はイオン化効率が高いため、MSで強いシグナルが観測された。また、標識化体はthiourea構造を有するため解離しやすく、衝突誘起解離により、ほぼ単一のプロダクトイオンを生じることが明らかになった。以上の結果から、上記の化合物はLC/MS/MS用標識試薬として優れていることが明らかになった。今後、これらの試薬を用いて、先天性代謝異常症のマーカー分子の分析法を確立する予定である。
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