近年、タンデム型質量分析計(MS/MS)が開発され、HPLCを組み合わせたLC/MS/MS法が、分析化学、生命化学、臨床化学、環境化学など広い分野で用いられるようになっている。本研究は、LC/MS/MS法における検出感度、選択性の向上のための標識試薬を開発することを第一の目的とした。そして、開発した標識試薬を用いて、疾患のマーカーとなる生体分子の高感度分析法の開発、さらには特定の官能基を有する生体分子の網羅的解析法を開発することを第二の目的とした。既に、平成22年度までに、LC/MS/MS用標識試薬として、DAABD-AE(カルボン基用)、DAABD-ABおよびDAABD-AP(短鎖カルボン酸用)、DAABD-MHz(カルボニル基用)などを開発した。また、3-pyridylisothiocyanateなどの市販の試薬の中にもLC/MS/MS用標識試薬として適した化合物があることを報告した。さらに、DAABD-AEを用いて、血漿中極長鎖脂肪酸の高感度分析法を開発し、これらの試薬が先天性代謝異常症の検査に有用であることを報告した。 以上の結果を踏まえ、平成23年度は、優れた試薬を開発するとともに、開発した試薬を実際に新生児マススクリーニングに応用することを目指して研究を行った。これまでの結果から、チオウレア骨格を有する化合物はMS/MS用試薬として適していることが明らかになったので、チオウレア骨格とともに、反応部位としてアミンまたはヒドラジンを有する化合物を合成した。N-(Pyridin-3-yl)hydrazinecarbothioamideなど、5種類の化合物を合成したところ、いずれも、カルボン酸用標識試薬として適していることが明らかになった。また、DAABD-AEを用いて、新生児の尿スポット中のグルタル酸および3-ヒドロキシグルタル酸の定量法を開発した。DAABD-AEは、これら化合物と、60度、45分で反応した。得られた誘導体はLC潮S/MSで高感度に分析できた。本法は、グルタル酸尿症タイプ1の診断に有用であった。
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