研究概要 |
肝臓などの臓器表面からの薬物吸収に基づく新規投与形態ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発を目指し、臓器表面への適用に最適な抗癌薬や遺伝子治療薬のDDS製剤の基本情報を検討し、癌化学療法や重篤な疾患治療への臨床応用へ向けた基盤研究を行う。そこで今年度では、臨床に近い投与形態における、抗癌薬の理想的な肝臓内微視的分布が得られる製剤学的条件を解析するために、薬物の肝臓表面からの吸収特性、および各種粘性添加剤の影響を調べた(D1)。さらに、遺伝子医薬品への応用展開を目的として、腹腔内の肝臓表面への遺伝子医薬品の適用の際に、考慮すべき各種要因を検討した(2)。 (1)腹腔内投与時における、各種薬物の肝臓表面からの吸収動態を検討したところ,通常の溶液の場合、非常に高い吸収速度を示した。そこで、腹腔内での薬物滞留性を向上させるため、粘性添加剤としてカルボキシメチルセルロースやポリビニルピロリドンなどを添加したところ、肝臓表面からの薬物吸収をある程度抑制できた。しかし、吸収部位を固定した拡散セルを用いて予測される吸収速度と比べて、非常に高い値を示した。したがって、実際に腹腔内の肝臓表面に投与する際は、肝臓表面への付着性を有する製剤を作製する必要性が明らかとなった(学会発表:西田孝洋)。 (2)腹腔内の肝臓表面を投与部位とした遺伝子医薬品の適用に関して、腹膜漿膜との摩擦や肝障害、さらには血清成分の影響を明らかにした。(雑誌論文:Yoshikawa, Fumoto, Mine)。さらに、摩擦が遺伝子導入効率の向上のための重要な要因であることから、腹腔内への有望な核酸導入剤を開発し(特許:麓伸太郎)、様々な分野への応用も見据えている。 今回得られた知見は、肝臓表面投与法に適用可能な抗癌薬や遺伝子医薬品製剤の開発において、有用な基礎的情報になると考えられる。
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