今年度(1)ポリアミンの分子修飾の可能性の探索および(2)分子修飾ポリアミンの水溶性高分子モデル化合物の腸管吸収への影響について検討した。 (1) 細胞内反応である、N-acyltransferase (NAT)による細胞膜リン脂質間で進行するアミノ基へのアシル基転移反応に着目し、この反応での生体アミン共存による修飾反応の可能性の探索を行った。NATは細胞膜のリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)のsn-1位の脂肪酸残基をホスファチジルエタノールアミン(PE)のアミノ基に転移させる酵素である。この転移反応の際にアミンが共存した場合、副次的反応が引き起こされ、アミンへのアシル基転移化合物が生成するのではないかとの仮説を立て実験を行った結果、NATによる細胞膜リン脂質間のアシル基転移反応の際、共存する生体アミンへの転移反応が副次的に進行する可能性が示された。 (2) ポリアミンによる腸管吸収促進作用機構解明の一環として、種々のポリアミンアナログを合成し、水溶性高分子モデル化合物の腸管吸収への影響を検討することを目的とした。鎖長及び電荷数の異なるポリアミンによる腸管吸収への影響を検討した結果、スペルミン(spm)の吸収促進作用には、メチレン鎖長よりも電価の影響が大きいことが示唆された。アシルスペルミン(Acyl spm)による腸管吸収への影響を検討した結果、脂肪酸の炭素鎖が長いもので、投与直後より顕著な吸収促進がみられ、その作用はspmより強いことが明らかになった。これはAcyl spmの疎水性部分が小腸上皮への到達を早めた可能性やAcyl spmがミセル形成するなど、spmとは異なるメカニズムで吸収促進作用を発現している可能性が考えられた。今年度の結果からポリアミンが分子修飾される可能性が示され、分子修飾ポリアミンが化合物の腸管吸収に影響を与えることが示唆された。
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