本年度は、我々が最近得たマクロライド骨格を持つ新規キチナーゼ阻害剤と霊菌のキチナーゼB(ChiB)の相互作用解析を行うための準備として、以下の内容の研究を行った。 1 ドッキング計算に用いる鍵穴構造の準備:先ず、ChiBと環状ペプチド性キチナーゼ阻害剤Argifinの複合体X線結晶構造(PDB:1HOI)を用いて、水溶液中でのMDシミュレーションを1700ps行なった。次に、初期構造からの座標に関するRMSDをプロットすることで、後半1000psのRMSDの値がほぼ一定であり、MDシミュレーションが平衡に達していることを確認した。そこで、後半1000psの溶液構造アンサンブル(全200スナップショット)について、触媒部位周辺のアミノ酸残基(全32個)の座標に関するクラスタリング解析を行った。その結果、890psと1505psの二つのスナップショットが代表溶液構造として選択された。最後に、この2つの代表溶液構造から、水分子とArgifinを取り除くことで、ドッキング計算に用いる鍵穴構造を用意した。 2 マクロライド骨格を持つ新規キチナーゼ阻害剤の立体配座解析:ドッキング計算は、通常、マクロライド骨格のような環状骨格についての柔軟性を計算中に考慮することができない。そのため、環状骨格については、ドッキング計算前に立体配座解析を行う必要がある。そこで、当研究室の自動配座解析プログラムCAMDASを用いて、新規キチナーゼ阻害剤の立体配座解析を行った。その結果、環状骨格の構造が異なる全部で746個の立体配座集団を得た。 今後は、本年度得られた鍵穴構造と新規キチナーゼ阻害剤の立体配座集団を用いてドッキング計算を行う予定である。
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