本年度は、計算化学手法により、我々が最近得たマクロライド骨格を持つ新規キチナーゼ阻害剤と霊菌のキチナーゼB(ChiB)の結合様式を解析した。先ず、昨年度行った立体配座解析により得られた新規キチナーゼ阻害剤の配座集団を用いて、ChiBの代表鍵穴構造に対するドッキング計算を行った。次に、評価関数Glidescoreを用いて上位ドッキングポーズを選択した。続いて、MM-PBSA法を用いて上位ドッキング複合体構造の自由エネルギー計算を行い、最も低い自由エネルギー値を与えたドッキング複合体構造を結合様式モデルとして選択した。最後に、結合様式モデルの周りにあらわな水分子を発生させてエネルギー極小化計算を行うことで、水分子を介した間接的な相互作用についても考察を行った。その結果、 1.新規キチナーゼ阻害剤は、ChiBの4つのアミノ酸残基(D142、E144、Y214、およびD215)の側鎖と全部で5つの直接水素結合相互作用を形成しそうであること。 2.新規キチナーゼ阻害剤が有する14員環マクロライド骨格は、ChiBのW97、F191、およびW220により形成される疎水性ポケットに収まり、そこで疎水相互作用を形成しそうであること。 3.新規キチナーゼ阻害剤の5位と12位の炭素に存在する2つの水酸基とChiBのD215主鎖酸素原子およびD316側鎖酸素原子の間において、水分子を介した間接的な水素結合相互作用が存在しそうなこと。 が示唆された。 今後は、この得られた結合様式に基づいて、新規キチナーゼ阻害剤の構造最適化を行う予定である。
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