マクロライド骨格を持つ新規キチナーゼ阻害剤Aのイン・シリコ構造最適化 ここでは、平成22年度に得られた、マクロライド骨格を持つ新規キチナーゼ阻害剤Aと霊菌キチナーゼB(ChiB)の結合様式モデルに基づいて、阻害剤Aの構造最適化を行った。先ず、結合様式モデルを詳細に観察したところ、(1)阻害剤Aの11位の水酸基に疎水性アルキル鎖を付加した誘導体は、chiBのF190、F191、およびL265と新たな疎水性相互作用、及びvan der Waals相互作用を形成できそうなこと、(2)阻害剤Aの5位の水酸基は水分子を介してChiBのD316と水素結合相互作用をしているので、その水酸基をエチルアルコールのような原子団で置き換えた誘導体は、水分子を介した水素結合相互作用を模倣できそうなこと、が示唆された。そこで、11位の水酸基をメトキシ基、イソプロポキシ基、およびイソブトキシ基で置換した誘導体(1)~(3)、阻害剤Aの5位の水酸基をエチルアルコール、およびエチルアミンで置換した誘導体(4)、(5)を考案し、それぞれの誘導体とChiBの複合体モデル構造をコンピュータ上で作製した。MM-GBSA法を用いた精密結合自由エネルギー計算を行ったところ、誘導体(2)、および誘導体(5)の結合自由エネルギーが大きく改善されそうなことがわかった。以上の結果より、阻害剤Aの11位の水酸基をイソプロポキシ基で置換し、かつ、5位の水酸基をエチルアミンで置換した誘導体が非常に有望そうであることがわかった。 イン・シリコスクリーニングを利用した低分子量キチナーゼ阻害剤の探索 ChiBのX線結晶構造に対するデータベース化合物の高速ドッキング計算を行うことで、低分子量キチナーゼ阻害剤BおよびCを同定することに成功した。 以上の結果は、新規な抗真菌薬、殺虫剤、および喘息治療薬の開発に非常に有益な情報を与えることができると思われる。
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