本研究は、生体膜インターフェイスにおける血清タンパク質が介在する薬物輸送機構の解明を通して、的確な薬物投与設計へとつながる薬物動態予測システムを構築することを目的として行われている。 本年度は、まず、円二色性分散計、核磁気共鳴装置および蛍光分光光度計を用いた検討を行い、ヒト血清アルブミン(HSA)およびα_1-酸性糖タンパク質(AGP)がいずれも、生体膜モデル(リポソーム)と相互作用することで二次構造の変化を起こし、トリプトファン残基(Trp)の置かれている環境が疎水的環境から親水的環境に変化していることを見出した。さらに、HSAおよびAGPへのワルファリンの結合性を検討し、生体膜との相互作用により結合性が低下することを確認した。 次に、初代肝培養細胞とHSAおよびAGPの相互作用を検討し、肝実質細胞膜上に糖鎖を認識する取り込みレセプターが存在していることを確認した。また、AGP変異体と薬物の結合性を検討した結果、AGPの薬物結合には122位のTrpを含む100位付近の3種程度の残基が関与していることを見出した。 以上の結果から、AGPは、膜レセプターに捉えられる形で細胞膜に取り込まれ、さらに、膜成分と相互作用することで薬物を放出する方向に構造変化(薬物結合領域の環境変化)を起こしているという機構を考察するに至った。今後、検討する細胞の種類を増やすとともに、HSA介在性の薬物輸送機構の存在および機序解明にも注力していく。 以上得られた基礎的な知見を、最終的には生体レベルで視覚的に実証するために、SPECTを用いた評価法も本年度確立しており、これらの知見、評価法に基づいて、膜インターフェイスでの血清タンパク介在性薬物輸送機構の詳細解明をさらに推進していく。
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