本研究は、生体膜インターフェイスにおける血清タンパク質が介在する薬物輸送機構の解明を通して、的確な薬物投与設計へとつながる薬物動態予測システムを構築することを目的として行われている。これまでの検討で、ヒト血清アルブミン(HSA)およびα_1-酸性糖タンパク質(AGP)と組織細胞膜との相互作用においてはレセプター介在性のエンドサイトーシスの関与が示唆される結果を得た。さらに、HSAおよびAGPを静脈内投与した場合、血漿中に最も多く、次いで肝臓、腎臓などの血流の多い臓器のみならず、筋肉、皮膚や肺のような血流の少ない組織中への分布も確認した。 本年度は、肝由来細胞(ラット初代肝培養細胞およびヒト肝がん細胞)および正常ヒト臍帯静脈内皮細胞を用いて、HSAおよびAGPの取り込み機構の詳細解明を行った。その結果、HSAの肝由来細胞の取り込みにおいてはクラスリン介在性エンドサイトーシスの関与が、さらに、AGPの肝由来細胞の取り込みにおいてはカベオラ介在性エンドサイトーシスの関与が示唆された。一方、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞の透過においてはレセプター介在性エンドサイトーシスを示す明確な結果は得られなかったが、それぞれの血清タンパク質に特異的に結合する薬物の透過が認められることから、血清タンパク質が薬物の透過をサポートする何らかの能動的な機序が存在するものと考えられた。 以上を前年度までに得られた知見とあわせて考察すると、血管内皮細胞および組織細胞膜上には、血清タンパク質の表面構造を認識し能動的に取り込む機構が存在している可能性が高く、これらの機構が連関し、薬物を効率的に運搬するシステムが機能していると考えられた。今後、この血清タンパク介在性の薬物輸送を定量的に把握し、より正確な薬物動態予測システムの構築に繋げていく予定である。
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