自然免疫はほとんどすべての多細胞生物が有する免疫系であり、細菌等の感染に対する抵抗性に必須である。細胞内寄生細菌は体液中から細胞内に侵入して増殖するが、それらに対する宿主側の防御反応として、宿主の持つ病原体認識分子が細胞質に侵入した菌を認識し、その認識依存的にオートファジーが誘導されて菌の増殖が抑制されることが明らかとなっているが、この細胞内寄生細菌の侵入に対するオートファジー誘導の分子機構は多くが不明である。本研究では、細胞内寄生細菌であるリステリア菌に対する抵抗反応として機能するオートファジーがPGRP-LEにより誘導される機構の解明を目的としている。本年度は、認識分子依存的なオートファジー誘導の分子機構を解明するために、PGRP-LEにおける自然免疫活性化に必要なアミノ酸領域を検討した。内在性のPGRP-LEを発現していない細胞であるショウジョウバエ胚由来培養細胞S2細胞を用い、様々な欠損を有するPGRP-LEを発現させ、細胞内寄生細菌であるリステリア菌の感染を行うことにより、自然免疫応答であるオートファジー誘導と抗菌ペプチド産生誘導の各々に必要なアミノ酸領域の検討を行った。その結果、オートファジー誘導のみに必要な領域(90番目~93番目のアミノ酸)、抗菌ペプチド産生誘導のみに必要な領域(98番目~101番目のアミノ酸)、また、両方の誘導に必要な領域(102番目~105番目のアミノ酸)を同定した。この結果は、オートファジー誘導と抗菌ペプチド産生誘導というPGRP-LE依存的な2つの自然免疫応答の活性化が異なる機構に依っていることを示唆しており、未同定の自然免疫経路である細菌感染における選択的オートファジー誘導の分子機構解明に新たな手がかりを与えるものである。
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