癌のケモテラピーにおいて、抗癌剤による副作用や長期抗癌剤による抵抗性(耐性)獲得が問題視されている。抗癌剤耐性の機構については、p53をはじめ多くの因子が関与することが知られているが、最近新たに癌幹細胞の存在が明らかになり、これが抗癌剤耐性としてケモテラピーの標的にすることが重要であると思われる。しかし、癌幹細胞の生存や分化に関しては不明である。研究代表らは最近、スフィンゴ脂質代謝が各種抗癌剤抵抗性の制御に深く関与していることを明らかにした。今年度は、この先行研究を発展させ、癌幹細胞における抗癌剤耐性とスフィンゴ脂質由来生理活性脂質の産生との関連性に焦点を当てて、癌幹細胞との関連性について研究を行った。 各種大腸癌細胞を用いて、抗癌剤に対する細胞死に対して感受性の高い細胞と抵抗性細胞(耐性)を選別し、スフィンゴ脂質代謝の動態との関連性を検討した。抗癌剤オキサリプラチンに対する代表的な抗癌剤抵抗性細胞RKOにおいて、スフィンゴシンキナーゼ(SPHK)の高活性を示し、SPHKの阻害剤を抗癌剤と同時処理することにより、感受性を示したことから、SPHKが抗癌剤耐性を制御していることを明らかにした。さらに、抗癌剤感受性細胞に長期抗癌剤を処理することにより抵抗性細胞株を分離し、癌幹細胞の指標CD44やスフィンゴシンキナーゼ(SPHK)の発現および下流シグナル系の影響を検討し、SPHKの薬剤耐性における関与を検討した。抗癌剤抵抗性株は、SPHKの活性とタンパク発現、およびCD44の発現が顕著に上昇していたが、その機構として、SPHKにより産生されてたS1Pが受容体を介してERKを活性化して、CD44の発現を増加することをみいだした。したがって、SPHKは抗癌剤抵抗性に関与する重要な酵素とであり、抗癌剤の分指標的治療薬の標的になることを示唆した。
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