p53のユビキチンプロテアソームシステムによる分解の基質認識分子の一つとして同定されたPirh2について、われわれはこれまでに、細胞周期進行を負に制御するp27の分解にも携わっていること、Pirh2の発現レベルの亢進がヒト臨床口腔癌で認められることを明らかにしてきた。これらの知見より、Pirh2のタンパク量増大は癌発生と進行にアクセル的な機能を持つと推測される。しかしPirh2タンパクの量的変動がどのようなメカニズムで制御されているのかは、全くわかっていない。われわれは発癌過程でのPirh2変動の有無を確認するため、細胞に複数種のストレスを負荷してどのような環境下で変動し得るか調べた。その結果、DNAアルキル化剤によるDNAダメージを与えた時には、Pirh2タンパク量が低下することを見いだした。現在はその量的調節機構の解明に向けた研究を進めている。 過去の報告で、Pirh2以外のp53ユビキチンリガーゼであるMdm2はDNAストレスによって転写抑制によって減少することがわかっているが、Pirh2のタンパク量減少は翻訳後調節によるもので、転写レベルに変化は認められなかった。またPirh2タンパクはユビキチン化修飾が亢進していたため、ユビキチンプロテアソームシステムによる分解が促進することでタンパク量が減少しているものと考えられた。今後はこの分解に関わるE3リガーゼの同定を試みる予定である。またどのようなシグナルがE3による分解が誘導されるために必要となっているのか、各種酵素阻害剤を用いた検討を進行中である。
|