p53のユビキチンプロテアソームシステムによる分解の基質認識分子の一つとして同定されたPirh2について、われわれはこれまでに、細胞周期進行を負に制御するp27の分解にも携わっていること、Pirh2の発現レベルの亢進がヒト臨床口腔癌で認められることを明らかにしてきた。このことから、Pirh2は他の分解ターゲットを持ち、多種の臓器の癌の発症進展にも関わっている可能性があると考えた。 Pirh2の既知の標的であるp27は、Skp2の分解標的でもある。血液癌発症に関与することが知られているc-Myb転写因子はユビキチン-プロテアソーム系によって分解される事がわかっていたが、E3は不明であった。我々はSkp2がc-Mybと結合能を持つ事に気づき、Pirh2もc-Mybタンパクと相互作用する関係にあるのではないかと仮説をたて、検証を試みた。その結果、Skp2もPirh2もc-MybのE3ではないことがわかった。その一方でSkp2と同じSCFコンポーネントのE3であるFbw7がE3として機能し、血液癌細胞K562におけるc-Mybのタンパク量およびその活性を制御していることを明らかにした。またマウスc-Mybを対象としてFbw7による制御機構を検討したところ、Fbw7が基質を認識、ユビキチン化分解するには、GSK3による基質のThr572のリン酸化が重要であることを見出した。ところが、このアミノ酸はヒトc-Mybには保存されておらず、Fbw7の認識システムは種によって異なると考えられた。その一方で、GSK3活性はヒトc-MybのmRNA発現レベルを抑制することを明らかにした。これらの結果より、GSK3はタンパク分解促進と転写抑制の二つの側面から、c-Myb存在量を負に制御していることが示唆された。
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